コラム
冬になると気分が落ち込む~冬季うつとTMS治療という新しい選択肢~
はじめに
秋の終わりごろから冬にかけてなんとなくもやもやする、すっきりしない──
そんな経験はありませんか。
それはもしかすると「たまたまそういう時もある」や「気のせい」ではなく、「冬季うつ(季節性うつ病)」かもしれません。
冬季うつは心の病気であり、適切な治療が必要ですが、特定の時期のみ症状が現れるため「病気である」という認識を持ちにくく、なかなか医療機関に繋がりにくいという現状があります。
そこで今回は冬季うつについて紹介していくとともに、治療方法について解説していきますので、すこしでも冬季うつに心当たりのある方はぜひ参考にしてください。
冬季うつ(季節性うつ病)とは
冬季うつとはうつ病の一種であり、秋から冬にかけて症状が現れ、春ごろになると症状がなくなるという特徴があります。有病率は日本では約2%とされており、20代の女性に多いことが分かっています。
冬季うつ病が発症する原因として、日照時間の不足が考えられています。私たちの脳内では「セロトニン」と呼ばれる神経伝達物質が分泌され、気分の安定や、睡眠のリズムを整える役割を担っています。
このセロトニンの分泌を促すためには「光」が欠かせません。強い光を目で感じることでセロトニン神経が活性化し、セロトニン量が増加します。
セロトニン神経の活性化に必要な光の強さは2,500~3,000ルクスとされており、これは野球場の照明並みの明るさであり、通常の屋内では明るさの確保は困難です。一方、日光では、曇りの日の午前10時で25,000ルクス、お昼で32,000ルクスであるといわれており、屋外で日を浴びることで十分なセロトニンの分泌を促すことができます。
しかし寒くなってくると外出を避け、防寒のためにカーテンやシャッターを閉め切った屋内に閉じこもることで、十分な光を得られず、セロトニン量が不足します。その結果、精神的に不安定になり、冬季うつを発症するのではないかと考えられています。
また、冬季うつは一般的なうつ病と同様に「気分の落ち込み」「活力の低下」「易怒性(少しのことでイライラする)の増加」といった症状が見られますが、一方でうつ病ではあまり見られない「長時間睡眠」「過食」が現れることが特徴です。
セロトニン量が減ることで体内時計が乱れやすくなり、夜の睡眠時間が延びるだけでなく、日光を浴びないことで睡眠を促す「メラトニン」という物質が過剰に分泌され、日中にも強い眠気を感じてしまいます。朝起きるのがとてもつらくなり、自分でもコントロールできず、会社や学校に行くことが困難になります。
また、セロトニンが減少することで食欲のコントロールが難しくなり、炭水化物(特に糖分)を求めるようになります。そのため、「お腹がいっぱいでも食べてしまう」「常に食べ物のことを考えてしまい集中できない」という状態に陥ってしまうのです。
うつ病に対する従来の治療法を紹介
次に、冬季うつをはじめとしたうつ病の治療方法について解説していきます。ここでは主に薬物療法・光療法・心理療法の3つに焦点を当てて紹介します。
まず最も一般的な治療法である薬物療法についてです。うつ病の治療では主に抗うつ薬が用いられますが、症状によっては抗不安薬や睡眠薬なども使用されます。精神疾患の治療は、服薬すればすぐに症状が改善するわけではありませんし、薬を中断すると再発のリスクもあります。最低でも半年間は継続して服薬し、症状が落ち着いても医師の指示のもと少しずつ薬を減らしていく必要があります。
冬季うつの原因は日照時間の不足であると先ほど紹介しました。それならば光を浴びる時間を増やせばセロトニンの分泌が正常化し、メラトニンの過剰な分泌も抑えられるはずです。このコントロールのための治療方法が光療法(高照度光照射療法)です。
光療法では特定の時間帯に2,000ルクス以上の光を数十分〜2時間程度浴びる必要があります。頭痛や眼精疲労などの副作用はありますが、即効性が期待できます。連日治療を受ける必要はあるものの、早ければ1週間程度で効果が見られる点が特徴です。妊娠などの理由で薬物療法を避けたい方にも適しています。
次に心理療法ですが、主に認知行動療法が用いられます。
同じ出来事を経験しても受け取り方は人それぞれです。気にしない人もいれば、深刻にとらえすぎてしまう人もいます。そのような出来事が積み重なることで、うつ病などの精神疾患を発症するきっかけとなることがあります。
認知行動療法では、考え方や実際の行動にアプローチしていきます。否定的な考えが浮かんだ際には、自分の考え方のクセに気付き、別の肯定的な捉え方を考えたり、その考えに基づいて行動したりすることで、日常生活の中で自然と適応的な思考や行動がとれるようになることを目指します。
認知行動療法は効果が認められていますが、週1回または隔週1回のカウンセリングを継続的に受ける必要があること、効果がカウンセラーの技量に左右されること、即効性がない点には注意が必要です。
新しい選択肢である「TMS治療」とは
ここまで3つの治療法について触れてきましたが、近年、新しい選択肢として注目されているのが TMS治療です。
TMS治療は、正常に働いていない脳に、磁気刺激を与えることで脳の機能の回復をはかる治療法です。治療効果が高く、副作用が少ないことが大きなメリットです。また、服薬の必要がないため、薬物療法に抵抗感を持っている方にもおすすめできます。
TMS治療の強みはそれだけではありません。薬物療法や心理療法は定期的な通院が長期間必要な場合もあり、光療法は効果を高めるために午前中の早い時間に毎日長時間光を浴びる必要がありますが、TMS療法は1回あたり10分~15分程度の治療を約30回行うことで治療が終了となります。治療ペースは患者さんのスケジュールと相談しながら決めることができるため、仕事や学業に大きな影響を与えずにすむケースも多くあります。
さらに薬物療法や光療法や心理療法とはメカニズムが異なるため、それまでの療法では効果が感じられなかった場合でも、TMS治療なら改善する可能性があります。
最後に
冒頭でも紹介しましたが、冬季うつは季節性の病気であり、春になれば症状は治まります。
しかし、秋から冬にかけて症状が悪化し、事態が深刻化したり、別の精神疾患を併発したりする可能性もあります。
早期発見・早期治療ができれば、冬季うつでつらい思いをする時間をぐっと短くすることができます。冬季うつに心当たりのある方は決して放置せず、早めに医療機関へ相談し、適切な治療を受けてください。
- 初診の方はこちらから初診のご予約はこちらから
- LINEでのご予約はこちらからLINEでのご予約はこちらから
- ※再診の方はお電話でご予約ください
参考文献
- 白川修一郎・大川匡子・内山眞・小栗貢・香坂雅子・三島和夫・井上寛・亀井健二(1993)「日本人の季節による気分および行動の変化」, 『精神保健研究』, 39, 81-93(2025.10.9参照)
- 三島由美子・三島和夫・大川匡子(2000)「概日リズム睡眠障害と光」, 『生理心理学と精神生理学』, 18(1), 17-25(2025.10.11参照)
- 山寺博史・中村秀一・鈴木英朗・遠藤俊吉(1997)「季節性感情障害(冬季うつ病)に対するalprazolamの効果」, 『日本医科大学雑誌』, 64(1), 53-56(2025.10.10参照)
記事監修
|
梅田メンタルクリニック
▶︎院長についてはこちら |
